お弁当で鮮魚が味わえる、という幸福

海鮮ダイニング 樹
和食・寿司 東京・葛西

限りなく刺し身に近い鯛の炙りは、鮮度が命

ほんのりと桜色に色づいた鯛の炙りが、茶飯の上に、ひと切れ、ふた切れ……と行儀よく並ぶ。焼き目の付いた皮はすこぶる香ばしく、脂がじんわりにじみ出た身は、実に艶やかだ。お弁当のおかずとしてはあまり馴染みのない鯛の炙りだが、『海鮮ダイニング 樹』ではこれをメインとしたお弁当を生み出した。「鯛の炙り イクラのせ御膳」だ。炙りは鮮度が命。店主の石渡直樹さんは、毎日、自ら築地市場の場内で魚介を仕入れる。その時々で最もおいしい産地のものを厳選し、活〆したての鯛を使うのだ。ごま油がうっすら香る茶飯とは相性抜群。妻・桃子さんと仲良く二人三脚で手がけるお弁当にはどんな物語があるのだろう。

店主の石渡さん

料理人と仲買人、貫きたい二足のわらじ

石渡さんの朝は早い。午前2時に起床し、3時には築地市場に現れる。しかし、驚くのは仕入れの客としてではなく、場内の仲卸の店先に立っていること。そう、石渡さんは店主で料理人でありながら、築地市場で働く仲買人でもあるのだ。10代で始めた仕出し弁当屋のアルバイトを機に、20代から和食の道へ。途中、縁あって築地の仲卸業に社員として就くも、自分の店を持つ夢が膨らみ、夜は、割烹料理店にて修業。念願叶って9年前、『海鮮ダイニング 樹』を開いた。築地の仕事は開店当初に一時離れたが、3年前に再開。寝る間も惜しんで二足のわらじを履き続けるのはなぜなのか? 「毎日仕入れができるのでちょうどいいんです。築地にいれば目も肥える。でも一番は、両方とも好きなことだからやめられないんですよ」。

仲卸の矜持

日本一の市場の仲卸だからこそできる仕入れ

卸売業者が全国で買い付けた水産物が集結する、築地市場。場内は小型運搬車「ターレ」が行き交い、威勢のよい声が響く。水産仲卸棟には数百もの仲卸店が軒を連ねる。そんな仲卸とは、セリや卸売業者からの直接買い付けを通して品物を揃え、毎朝仕入れでやって来る料亭や寿司屋、小売業者などの料理・食材のプロたちに販売するのが主な仕事。「世界で一番大きい市場と言われる築地市場は、日本で最も魚が集まります。それは種類も質も。そんな場所で働けるのは誇りです。それに同業の人はみな、人がいい。仲間のように親しくなれるんです」。長年培った人間関係を通して、魚の見方に扱う技術、仕入れのコツ、仲卸店それぞれの得意分野などを知った石渡さん。そんな様々な知識と経験の蓄積が、よりよい食材の仕入れに結びついているのだ。

鯛を炙ること

甘く、香ばしく、鯛を最もおいしい食べ方で

炙りとは言え、鯛の刺身をお弁当にした斬新な発想の『鯛の炙り イクラのせ御膳』は、ひらめきの産物だ。「お弁当の内容を考える時、偶然手元にあったのが鯛でした。鮮度がいい魚なら炙れば安心ですし、刺し身の食感もちゃんとある。それに鯛は炙るのが一番。甘みが出ますし、皮目まで香ばしくおいしく食べられますからね」。わさび醤油を垂らしていただくと、肉厚な身の小気味よい食感に、あぁ、うっとり。しょうゆやみりんで味付けした茶飯が味を引き立てる。隣に並ぶ鯖の竜田揚げは、カラリと揚がり厚くてふっくら。ごま油とブラックペッパーが効いた濃厚なタレが食欲をそそる。他にも、木綿豆腐に揚げ玉やネギをのせた薬味豆腐に、ニンジンやオクラなどをしっかり煮〆た彩り豊かな煮物などと副菜も充実。夫婦二人で試食し味を確かめ合いながら生み出した、わが子のような逸品なのだ。

現在は、塩イクラをふんだんにちりばめた新年特別仕様で提供する。見た目も味も飽きさせない、めでたいお弁当で、あなたの席を晴れやかに……。